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Overlay Multiple Values

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僕たちの活動は「価値が重なることは豊かなことだ」というテーマに基づいている。

「重なる」ということがポイントであり、離散的にバラバラな価値が同時に並列されているのではなく、異なる価値が共存する積集合としての重なり方に興味がある。これは僕たちが日々建築に関わっている中で感じている「1つの建築・空間に機能がどんどんと集約されていく傾向があること」「公共的な空間を民間の力によって実現しようとする機運があること」から端を発している。前者は人口減少・超高齢化社会を迎えて過大となってしまったインフラの維持がこの先困難であることの現れである。1建物1用途ではなく1建物多用途へと凝縮された時「ここではこれをする」という受動的態度ではなく「ここで何をするか」という能動的態度が求められる。後者については、SNSといった拡散していくサービスの普及によってもたらされた「消費」よりも「承認=自分が主役になれること・自分が選ぶこと(自分の指標となる誰かを選ぶこと)・自分が状況に関わること」に価値を見い出す傾向において、自分が居る場所や自分達が集まる場所に関しても「誰かに与えられるもの」ではなく「自ら(自分達)がつくるもの」へと変わりつつあることの現れである。

 

能動的に価値を見い出せる建築

その現状を踏まえて、僕たちは「ここをこんな風に使いたい」とか「ここでこんなことをすると面白いんじゃないか」といった期待や欲望を促すような、各々が能動的に価値を見い出せる建築を目指している。例えば、昨日音楽ホールだったものが、今日は別の人たちがやってきてマーケットになっていて、次の日にはまた別の人たちがやってきて書道教室になっているような。そして、僕たちが想像もしていなかったような使われ方に出会いたい。当然建築はある目的のためにつくられるが、加速度的に社会状況が変化する現代において当初の目的は脆弱である。そういった状況の中では、建築は多種多様なアクティビティや他者性を受け入れることができ、それによって価値が重層化していく方が適切であり、時代を超えた変化にも対応できる。

 

心に残るイメージ

そのような状況を生み出すために、建築がもたらす場、建築がつくる空間、ひいては建築を構成する各要素自体は多角的な解釈が起こり得る状態でなくてはならない。また、単純に大らかで自由な空間があれば重なりが生まれるという訳ではなく、多種多様なアクティビティを誘発し、かつそれらに対応し得る柔軟性を担保する設えも必要である。そしてこれらを包括して思考し、自然科学的知見を踏まえながら、周辺環境、歴史、風土、慣習といったあらゆるコンテクストから導かれる、その場所でしか生まれない形によって統合を計る。なぜなら、ある想定を元に即物的に組み上げていき、統合されていない部分の集合体になると、ある角度からその建築の価値を捉えた際に部分のみを抜き出して解釈することになる。つまり、多種多様な使い方や多角的な解釈がそれぞれ重ならずに離散してしまうからである。使い方や解釈が違ったとしても体験した人たちが共通して心に残るイメージをつくることで、価値観が異なる人達が集い、価値が重なり合うための拠り所となる。

 

価値を集める目的地

現代の日本の街並を形成しているのは、歴史的建造物でも建築家が設計した建築でもない、その他の建物郡だろう。つまり、建築家が設計した建築はマイノリティーであり、街並や風景をつくっているとは言いにくい状況である。その中で、建築家が設計する建築には人を惹きつける力が期待される。それに応えるように、能動的に価値を見い出せる建築や共通して心に残るイメージによって、そこを目的地化し、様々な価値が集まって来る状況を生み出す。単に大きな経済を動かす集客装置になるだけではなく、地域の小さな経済や共同性を育む場にもなる。

 

歴史-伝統・文化-慣習の再解釈

歴史の流れの中で伝統化して今も残り続けているものや、ある文化圏の中で慣習化して既成概念化しているものについて再解釈を行い、元々ある価値に新しい価値を重ねていくことも意識している。既存のものが必ずしも正しいというわけではなく、その時代のその状況における解釈を加えて未来へ投げかけることが大事であり、それによってまた次の新しい解釈が生まれ得るのである。ただし、伝統的なものは多数の人が共通して心地良さを感じるし、慣習的なものは多数の人が共通して安心感を抱くということを忘れてはならない。ゆえに、刷新するのではなく、あくまでも「価値を重ねる」のである。

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